インドネシアへ行く
2011年1月、インドネシアへ向けて出発。海外へは学生の頃に行ったアメリカくらいなので準備から気分からまるで勝手が分からない。当日の夕方に神戸へ行き同行するメンバーと合流して懇親会と今回の農園視察の説明があった。翌朝は4時起床を目標にベッドへ潜るがまず眠れない。友人知人に起こしてくれと頼み込んでの就寝。全く情けない。3時間は寝ただろうか、寝坊したと飛び起きて時計を見ると4時少し前、そのあとすぐに友人からの電話が鳴った。感謝。
集合場所のバスターミナルへ。日の出前くらいの出発は旅の雰囲気満々だった。関西国際空港へ到着し、出国手続きを済ませて皆でうどんを食した。懇親会で集まった方々からのコーヒー屋さんたちと談笑しながら搭乗時間までしばしの待機。なんともソワソワしちゃう。
関西国際空港からシンガポールへ行き、そこからメダンへ向かう。約7時間ほどのフライト。映画を見たりしているうちに着くだろうと思っていたが、7時間座っているのは結構長い時間に思う。機内をテクテク散歩するわけもいかずじっと過ごしていた。
シンガポールへ着き、空港内を歩いていると厚着していたため汗だくになった。海外旅行慣れしていないため着替えも手荷物に入れていない。売店でTシャツを買い着替えた。気温は30度くらいだった。次のフライトまでの時間をフルーツジュースを飲んだりして賑やかな空港内を歩き回った。夕方に搭乗しインドネシアはどんな国だろうと想像しながら窓の外を眺めていた。
蒸し暑い。賑やかを通り越して騒々しい。バイクが多い。初めて目にした東南アジアの印象。入国手続きを済ませて待ち合わせていたバスに乗り込む。アテンドしてくれる商社の方のスーツケースが機内に運ばれておらず届いていないらしい。小一時間ほど待機してからバスで移動した。夕食はマリオットホテルの中華を食べるらしく美味しいものがあると聞いていたので楽しみだった。
マリオットでの中華は贅沢な食材をこれでもかと調理されたのもでどれも美味しく頂いた。ビールは苦手だったがせっかくなのでインドネシアのビールも試した。宿泊先のホテルもこれまたゴージャスなお部屋でもリーズナブルなお値段だった。キングサイズのベッドに落ち着かなくてゴロゴロしているうちにいつの間にか寝てしまった。翌朝5時に目が覚めて出発準備をしておいた。朝食を取りバスに乗り込みこの日はパラパットという町まで移動する。約7時間の移動だ。
車窓には見慣れない光景がたくさんで飽きなかった。年中咲いている艶やかな花やヤシの木やキャッサバ、水牛が道路ぎわを賑わせていた。それにしてもバスのシートのスプリングが壊れていて直接お尻に当たる何とも落ち着かないシートだ。
日本から遠く離れているだけで色々な人たちと出会う。言葉は通じなくても表情で取れるコミュニケーションが心地良かったりする。途中シアンタールという町で昼食する。「汁そば」を頼むと、エビとイカ、レバー、カマボコに似たもの、小松菜が入っていた。混沌としたここの出汁が渾然となって良い味になっていた。他に唐揚げがありカリッと香ばしく骨まで食せるたぶん何かの鳥だろうと思うものも美味しかった。名前の知らない酸っぱい果物のジュース、ビンタンビール。お水と氷は避けた方が良いと聞いていたのでジュースを頼んだのだが、しっかりと氷を入れてジューサーにかけていた。それを喉が乾いていいたのでゴクゴクやってしまって落ち込んだ。食堂から出る際に厨房を覗いた時の光景に唖然とした。茶色い塊にハエがものすごい量いた。それはレバーと肉の塊だった。これをさっき美味しく食べてたのかと思うと、火を入れると大抵のものは美味しくなるのだと強く言い聞かせた。
パラパットに到着すると少し涼しかった。ここは大きな湖があり地元の人たちの避暑地になっているようだ。お土産屋さんが軒を連ねて、果物屋さんがあちこちに露店を出している。とりあえずホテルへ向かう。本日の宿泊はリゾートホテルのような佇まいであったが室内は質素だ。シャワーをひねるとお湯は出たが下水のような匂いを感じる。夕食は美味しかった。地元の野菜がふんだんに使われた料理はどこか日本を思い出す味付けで美味しかった。
夜はビリヤードをして盛り上がった。明日に訪れる初めてのコーヒー農園に嬉しくなった。翌朝5時に目が覚めてホテル周辺を歩く。肌寒くフリースを着た。
朝食はおかゆと野菜と果物をたくさん食べてオレンジジュースを2杯頂いた。生絞りのジュースは香りまで美味しい。いよいよ農園に向けて約2時間の移動。田園風景から高原の雰囲気になり車窓から見える顔立ちにも変化が見える。道路はデコボコになり、細い道では朝市のように賑わっている。ここを通り抜けるようだがどうやって通るのかなと不思議に思っているとテントをたたんで道を開けるようにお願いしている。普段はこんな大きなバスは通らないのだから仕方がない。
いよいよ農園近くなり道路脇にもコーヒーの木々が見える。最初は道端にもコーヒーの木があることに驚いた。日本にいたら知らないことだらけの中でコーヒーの仕事をしていた。知識はたくさん詰まっていたから、そのギャップに戸惑う。
トマトと一緒にコーヒーが育っていた。軽いカルチャーショックを受けた。なんてことはない、農家からすると同じ植物だろう。店頭でコーヒーの話をしている時、この景色は想像できなかった。コーヒーは本当に深い。
細いぬかるみを歩く。この道を抜けると…
忽然と現れたコーヒーの木々。コーヒーの開花時期や収穫は過ぎているが圧倒されてしまった。自分が店頭に立ち販売しているコーヒー豆はここで育っていたのかと感慨深く思う。土の感触や葉っぱの硬さや艶やかさ、農園内の鳥の声や吹く風の湿度。全てがコーヒーに成り替わる気がした。
コーヒーをどう捉えるか?コーヒー屋さんの雰囲気につながると思う。
少しだけ残っていたコーヒーチェリーを摘み取って味わってみると、ほんのり甘くて少し青臭い。種の周りのヌメヌメとしたゼリー状に甘さを感じるが果肉はほとんどない。
果肉を剥いた後は肥料となる。農園内の土はふかふかとしていて歩いていて心地よかった。
果肉を剥くとパーチメントが見える。
農園に咲く花。
農園を後にし、湖が見える場所でお弁当を食べた。すぐ近くにおこぼれをもらいに野良犬が寄ってくる。日本でのこと、農園までの間に見た事、硬い唐揚げを頬張りながら考えた。これからのコーヒーが広い世界に見えて良かったと思った。
農園視察を終えて、このままメダンへ戻る。約9時間の移動だ。道のりは長い。
雲行きが怪しくなってきたがスコールの話を聞いていたのでどんなものか見てみたかった。
突然の大雨。想像していたのよりも激しくて驚いた。
あっという間に道路に川ができていた。軒下で雨宿りする人、そのまま遊んでいる人、だいたい洗濯物はしまわれていない。
雨上がりの街は夕方間近で慌ただしく見えた。夕食の買い出しや学校帰り、人間模様も様々。
車窓からよく路地を眺めてた。路地は一瞬にして通り過ぎてしまうけどそこにいる人たちの姿がこれから何かしようと思うドラマが見える気がしてる。勝手な思いだが…
長い時間バスに乗って考える今までのコーヒーと、これからのコーヒーのこと。
いつものコーヒーがこれからどう変化していくのかなど。
そろそろメダンが近いのかな。
そろそろメダンだった。夕食をしっかりと取り、ホテルのバーでシンガポールスリングを飲んでみる。ひとまず農園視察を終えたので安堵の表情がある。お酒を飲み話を重ねていくうちにコーヒーにも様々な表情があるのだろうと感じた。
翌朝も5時に目が覚めた。ホテルはこの日も高階層の部屋だったので眺めていると複雑な気持ちになった。この日は精製工場を視察する。
洗濯物が雨に濡れてもすぐ乾くから雨のたびにいちいち取り込まないと聞いた。見た限りではロープを張りそのままぶら下げている。
精製工場では収穫された原料を天日乾燥したり、麻袋へ詰めたり、日本に入港する前にここで麻袋のプリントなどもしている。女性たちが丁寧にハンドピックをし欠点豆を取り除いていた。これを数度繰り返すこともある。
パーチメントを脱穀すると濃いグリーンの生豆が見える。
精製工場を後にし昼食をとる。インドネシア料理は味付けも食材もおいしく食べれた。たまたま唐辛子を噛んでしまわなければ悶絶は防げる。ナシゴレンやミーゴレンはやはり美味しかった。そして果物の美味しさに嬉々とした。
おみやげ屋さんに寄り、残ったルピアでお土産を買った。空港へ向かう前に新しいデパートへ立ち寄りコーヒーの味見をした。空港へ着くとたくさんの人で賑わっていた。ここに降り立った時のようでほんの数日の間の出来事が懐かしく思えた。
現地時間の22時くらいのフライトでシンガポールへ。夜中に乗り換えて関西国際空港へ。隣のシートが空いていたので横になって寝た。機内で今日までのコーヒがこれからのコーヒーになるんだなって神妙に思えた。一度世界へ飛び出してみたら、自分が余計に小さくなってしまいもっと大きくなりたいと思うようになれたのは良かったと思う。コーヒーのことは知れば知るほど分からないから深度を深めていく。店頭に並ぶまでにこれ程の距離を通ってきている豆に感謝する。またそれに携わっている人の多さにも驚いた。聞くだけのコーヒーと見てきたコーヒーは、これからの課題や目標となっている。